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おむにぼん。本/映画//感想

「破滅の匂い」フェチにはたまらない(けど自分はつらかったっす……)/ 『カポーティ』 (2005)

感想)主役の怪演! 破滅感がすごい

つらい。

観ているのがつらい映画だ。 ちょっと前に話題になった「共感性羞恥」があると思う人にとっては、耐えがたい映画だと思う。

実在事件を基にした小説『冷血』を書いたトルーマン・カポーティの伝記的映画。 取材過程で、トルーマンは得意の弁舌で収監中の犯人に取り入りながら、一方で、編集者や同僚の作家には「彼らは金の生る木だ」とへいきで二枚舌をつかう。

これは観ている側からするとめちゃくちゃつらい。
なぜなら、よくよく考えなくてもそんなコウモリみたいな真似がうまくいくわけないからだ。 吃音ぎみの小男が、一見すると誠心誠意相手を気遣うことばを発して見せる。死刑てまえの犯人に「どうか自殺なんて考えないでくれ」と。しかしそう時間もたたないうちに、カポーティは「死刑執行されないと小説のラストが書けない」とこぼすのである。

嘘しかない。 上機嫌で、無邪気に発される嘘しかない。あまりに単純で、それゆえになんて破滅のみえていることだろうか! こわい! カポーティめっちゃこわい。彼がウキウキで飛ばすジョークと(正直カポーティジョークは上手いのか分からないぞ!)、 周囲の引き気味な「なんやこいつ…」的温度差が異常に伝わってくる。

この「破滅の匂い」が全編に色濃く流れていて、この雰囲気が好きな人にはたまらんだろうが、そうでない人にとっては拷問のようだ。もうやめとこうよ。うまくいくはずないよ。

この責め苦を、カポーティはその純粋さゆえに最後までうけきってしまうのだが。

そしてラストで初めて、真実が、あまりに凡庸な顛末が重たく残る。

そこには「異常者」のカポーティはいない。

(凡庸な、あまりに凡庸な!)

(正確には、結末よりも早く、カポーティが獄中の青年に(カポーティにとっての)真実を語るシーンがある。多分いわゆる「サイコパスって母親にめっちゃ執着してそう」イメージって三歳児神話の変奏だと思うからあまり持ち上げたくはないけど、(彼にとっての真実として、)それはとても示唆的だ。)

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監督 ベネット・ミラー Bennett Miller(マネーボールの監督!)
主演 フィリップ・シーモア・ホフマン Philip Seymour Hoffman